メタンハイドレートとは?


「燃える氷」といわれるメタンハイドレート

 みなさんは非在来型天然ガス資源の一つとして期待されるメタンハイドレート(MH)をご存じでしょうか。「都市ガス」の主成分のメタンが、MHの形で海底・湖底堆積物の中や永久凍土環境にもあることがわかりつつあります。
 MHは水分子が水素結合で作ったナノスケールのカゴにメタンを取り込んだ構造になっており、低温・高圧条件下で生成します。メタン以外のガス分子を取り込む場合もあるので、総称はガスハイドレート(GH)です。本ページでは、「メタンを主成分とする天然ガス」からなり「自然に存在するGH」を「天然MH」とよび(1)、海底・湖底表面やその近傍に存在する天然MHを「表層型MH」とよびます。


MHの結晶構造図
球が「メタンガス」を示し、水分子により作られるカゴに取り込まれている。
本図は「VESTA*」を用いて作成しました。
*K. Momma and F. Izumi, "VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data", J. Appl. Crystallogr., 44, 1272-1276 (2011).


国立大学唯一の表層型MH採取


調査船内での各種測定の実施

 地域循環共生研究推進センター(以下本センター)は国内外の研究機関との共同調査で、例えば北海道周辺海域では、網走沖オホーツク海の海底で表層型MHを発見し、十勝沖太平洋では表層型MH存在を示唆する重要な指標を発見し、海外ではロシア連邦のバイカル湖とサハリン島沖等において、試料採取と各種の測定・解析に基づく研究調査を実施してきました。(2)~(8)
 日本では、「メタンハイドレート開発の今後の在り方について(平成29年)」、「海洋基本計画(平成30年)」および「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画(平成31年)」等に沿って国家プロジェクトとして天然MHの開発研究が進められています。
 「国立大学で唯一”表層型MH”を採取」できる知見と技術を併せ持つ本センターのMH研究は、北見工業大学のミッションおよび戦略の下に独自に推進してきた取り組みです。センター設立当初から実績に裏付けられた、国家プロジェクト研究に準ずる先駆的研究と位置づけることができます。
 この取り組みは「基礎研究」的ではありますが、天然MHの物理化学的特性等の解明を進めており、これらのデータは天然MH採掘の際に基盤データとして利用できます。よって厳密には「基礎研究」ではなく「基盤研究」として位置づけられ、「産業および実用化に貢献」しうる研究として推進しています。


多彩な専門分野の結集

 天然MHに関する研究において、本センターには他大学・他機関に見られない特筆すべき強みと特徴があります。
 それはGH工学、物理化学(GH結晶を含む)、分析化学、地盤工学、微生物学、計算化学、海洋音響学、計算機科学の多彩な専門分野の教員が力を合わせていることです。
 そして、研究推進に必要な技術を有する技術部職員と上記研究分野の教員が学生と一緒に専門施設・設備を用いて研究を推進していることです。


メタンハイドレートの構造


メタンハイドレートの分子模型。
赤い粒子が水分子、
テニスボールがメタン分子。

 メタンハイドレートは低温・高圧で安定な氷状の結晶固体で、水分子が作るカゴ状のフレームの内部にメタンガス分子を包有しています。こうした結晶は、一般にクラスレート・ハイドレート(包接水和物)あるいは単にガスハイドレート(気体水和物)と呼ばれ、内包するゲスト分子の種類や温度・圧力条件に依存して結晶構造が変わります。
 水分子が作る基本的な「カゴ状の構造」には、12面体、14面体、16面体、20面体などの種類があります。例えば、12面体と14面体が隙間なく組み合わさると格子定数約12Å(オングストローム、1オングストロームは百億分の一ミリ)の立方晶系の結晶「クラスレート・ハイドレート構造I型」となり、また12面体と16面体が組み合わされると格子定数約17Åの立方晶系の結晶「クラスレート・ハイドレート構造II型」となります。
 これまでの研究によれば、メタンハイドレートや炭酸ガスハイドレートはI型、プロパンハイドレートや空気(窒素および酸素)ハイドレートはII型の構造をとることが知られています。


メタンハイドレートのある場所

 メタンハイドレートは、海底堆積物中や永久凍土層中など低温・高圧下で天然に存在しています。採取直後に点火すると解離したメタンガスが炎をあげて燃えることから、「燃える氷」、「燃える雪玉」とも呼ばれています。
 地球表層でガスハイドレートとして貯蔵されているメタンガス量は、在来の化石燃料(石油、石炭、天然ガスなど)の埋蔵量の約2倍とも試算されていて、未利用エネルギー源として注目されています。メタンハイドレート鉱床の世界分布のうち、日本近海では南海トラフ(四国から東海沖)、上越海盆(日本海)、千島海溝(十勝から日高沖)、オホーツク海(網走沖)などでその産状に関する研究が進められています。
 環境・エネルギー研究推進センターでは、オホーツク海のメタンハイドレートに注目しています。オホーツク海サハリン島沖はメタンハイドレートの宝庫として知られており、ロシア・韓国の研究機関との国際共同研究が進行しています。
 また一方では、ロシア・ベルギーの研究機関とともにバイカル湖の湖底堆積物中に存在する天然ガスハイドレートに関する研究を進めています。天然ガスの主成分であるメタン以外にもエタンやプロパンが含まれ、これらが結晶構造を変化させることが知られています。


メタンハイドレートの燃焼の様子。


(1)「非在来型天然ガスのすべて」エネルギー資源の新たな主役(コールベッドメタン、シュールガス、メタンハイドレート)、第4章「メタンハイドレート」、日本エネルギー学会、天然ガス部会資源分科会、CBM・SG研究会GH研究会、日本工業出版株式会社、2014年。
(2)「研究広報シリーズ8」、海底・湖面に眠るエネルギーメタンハイドレートの神秘、庄子仁、山下聡、八久保晶弘、坂上寛敏、オホーツクスカイ、第14号、2011年10月。
(3)海洋調査実習プログラムにおいてメタンハイドレートを示唆する発見、山下聡、南尚嗣、八久保晶弘、坂上寛敏、2014年12月10日、本学ホームページ。
(4)「誌上公開講座・20」、天然メタンハイドレートの生成環境・機構の謎に迫る、南尚嗣、オホーツクスカイ、第25号、2017年3月。
(5)北海道網走沖の海底において表層メタンハイドレートと湧出ガスの撮影と採取に成功、山下聡、八久保晶弘、小西正朗、坂上寛敏、2017年7月31日、本学ホームページ。
(6)「地域とつながる研究」、北の海にメタンハイドレートを求めて、山下聡、りんく、2018年4月。
(7)「誌上公開講座・22」、メタンハイドレートと地球環境、八久保晶弘、オホーツクスカイ、第27号、2018年5月。
(8)本学と地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所の共同研究により北海道網走沖海底からメタンハイドレート採取に成功、山下聡、八久保晶弘、坂上寛敏、2018年10月25日、本学ホームページ。